国際税務の at random マメ用語

投資・進出すると日本での納税額が安くなる国があります(2006.12/10)

おさらい:全世界所得課税・国際的二重課税・外国税額控除制度

日本は、日本に住んでいる個人(居住者)と日本の企業(内国法人)に対し、「すべての所得」に対し課税することを税法で定めています。これを「(居住地国における)居住者・内国法人に対する全世界所得課税」といいます(多くの国がこの課税原則によっています)。
その結果、国外で得た所得に対しては、
居住地国である日本での課税(=居住地国における居住者・内国法人に対する全世界所得課税)
と、
所得源泉地国での課税(=その国における非居住者・外国法人に対する国内源泉所得課税)
重複・競合することになります。これが「国際的二重課税」です。

例えば、日本企業・甲社が、当期において、
①住んでいる国=居住地国である日本での所得100
②住んでいないがそこでモノを売った国=所得源泉地国であるA国での所得50
を得たケースでは、①100+②50=150の全世界所得
に対して日本で課税を受けるとともに、A国においても「A国における外国法人の国内源泉所得」として50につき、A国の税法に基づき課税を受けることになります。

そしてこの二重課税を解消する方策としてあるのが「外国税額控除制度」です。

【設例】

便宜上、法人課税の税率は<日本40%・A国30%>であると仮定します。

上記の例でいえば、

<日本での納税> 日本企業・甲社は、日本の所轄税務署に対して、(①100+②50)×40%=60の税額から、源泉地のA国で課税された②50×30%=15を差し引いて(控除して)、残り45を納税します。

<A国での納税> 日本企業・甲社は、A国の課税当局に対して、A国国内源泉所得50×A国税率30%=15を納税します。

ケース1:外国税額控除制度が適用されず二重課税が解消されない

  日本での納税額 60  
A国での納税額 15  
  75 ⇒全世界ベースでの納税額

ケース2:外国税額控除制度により二重課税が解消されている

  日本での納税額 45  
A国での納税額 15  
  60 ⇒全世界ベースでの納税額

以上が、本コーナーの第二回で確認した内容です。

もしA国の隣国B国が「外国法人は非課税」としていたらどうなる?

このケースで、A国の隣国のB国が、外資誘致の政策観点から「外国法人はB国でどれだけ稼いでも非課税」という優遇措置を講じているとどうなるでしょうか?

甲社がB国で国内源泉所得50を得たとして、これはB国では非課税とされます。従って、日本での納税のみとなります。日本企業・甲社は、日本の所轄税務署に対して、(①100+②50)×40%=60を納税することになります。これが当期の甲社の「全世界ベースでの納税額」です。

ここで上記の<ケース2:外国税額控除制度により二重課税が解消されている>をみてください。

A国において「所得50に対し30%課税」が行われたケースの最終的な「全世界ベースでの納税額」は60でした(日本45+A国15)。一方で、B国において「外資優遇措置により所得50は非課税」とされた場合も、やっぱり最終的な「全世界ベースでの納税額」は60です(日本60)。

つまり、投資・進出する日本企業・甲社にとって、外国税額控除制度が適用⇒機能することで「進出先で課税されようがされまいが最終的な税負担は変わらない」ということになります。B国のせっかくの外資優遇税制も外国企業にとってはメリットなし。税負担という観点からは、「A国に進出してもB国に進出しても同じ」ということです。

日本に「B国投資・進出促進税制」を手当てしてもらう

B国が、A国に対するタックスメリットを生かすためにはどうしたらよいでしょうか?

そのためには、進出する側の日本にお願いして、B国投資・進出のためのインセンティブ(誘因・呼び水)として、特別に税制措置(投資促進税制)を手当てしてもらう必要があります。

租税特別措置法には、ごぞんじのとおり、特定の機械・装置を購入したり、従業員育成などの特定の支出をした場合に、減価償却費の割増し(早期費用化)を認める特別(割増)償却制度や、支出額の一定額を納税額から控除する特別税額控除制度が各種手当てされています。これらと同様に「B国に投資・進出する」ことに対してインセンティブを与えるため、日本側がいわば“譲歩”して、特別に税額控除を適用するわけです。

具体的には、実際には非課税なのに、A国と同様に「所得50に対し30%課税=15」が行われたものとみなして、その分を日本での全世界納税額から差し引くことを認めます。これが「みなし外国税額控除制度」(Tax Sparing Credit タックス・スペアリング・クレジット)です。

現地で課税された分を差し引く、通常の外国税額控除制度が「二重課税排除」を目的としているのに対し、こちらのケースでは、そもそも二重課税が生じていません(源泉地非課税=居住地国のみ課税)。その意味で、租税特別措置同様、すぐれて政策的な「投資税額控除制度」の一種といえます。

ケース3:みなし外国税額控除制度によりB国の優遇措置が効いている

  日本での納税額 60  
B国みなし控除額 15  
  45 ⇒全世界ベースでの納税額
KeyWord

外資優遇税制がある国でも、ない国でも、日本で「外国税額控除制度」が適用されると、最終的な税負担は同じになる。つまり、外資優遇措置が意味を持たなくなる(せっかくの優遇措置が有利に働かない)。

○「みなし外国税額控除制度」は、ある特定の国に投資・進出した企業に対し適用される特別な税額控除制度。その進出国で、外資優遇により、源泉地課税が減免されていても「減免されずに本則どおり課税されたもの」とみなして、その「みなし課税相当額」が、日本での納税額から控除される。「二重課税排除のための措置」ではなく、その国への日本企業の投資・進出を促進するための税制措置──「投資税額控除制度」である。

○「みなし外国税額控除制度」は、個別租税条約において手当てされる。現在、日本が「みなし外国税額控除制度」を認めている条約締結国は①パキスタン、②スリ・ランカ、③ザンビア、④ブラジル、⑤フィリピン、⑥中国、⑦タイ、⑧バングラデシュ、⑨ヴィエトナム──の9カ国。このうち①パキスタンとの間では、将来廃止することについて、本年6月に両国政府が合意済み。

○この「みなし外国税額控除制度」に対する、政府・財務省の現在の立場は以下のとおり。「わが国は、開発途上国から強い要望がある場合に、開発途上国への経済協力という政策的配慮から、租税条約上みなし外国税額控除を規定することに応じてきたが、平成14年11月の税制調査会「平成15年度における税制改革についての答申―あるべき税制の構築に向けて―」も踏まえ、課税の公平性や中立性の観点から、みなし外国税額控除については見直し・縮減を図ることとしている。」(財務省ホームページより)

 

<つづく>

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